それに比べて、カイ先輩はドリフト一筋である。

部員の中では誰よりもテクニックがあるし、技のひとつひとつも正確だ(と、みんなが言ってた)。

でも、そこまで上手くなるために毎晩毎晩走りに行って――留年まで至ってしまった、という噂も聞いた。


「……やっぱり怖い?」


未知なる“ドリフト”を目の前にして、あたしの胸はどきどきとうるさいくらいに鳴っていた。


「怖くないよ。スピード狂の隼人さんに比べれば、ねぇ」


リュウくんはあっさり笑った。


「スピードがのることはないから、安心しろ。おれのローレルは動きが鈍いから、すぐに身体も慣れる」


不安げなあたしの頭を、カイ先輩がぐしゃぐしゃとなでた。


「その為に払っただろ?同乗者用の保険」


「ああ……あれってどういうことなんですっけ?」


確かに、さっきの受付でカイ先輩が、保険代の500円を、あたしの分まで払ってくれた。

ぽかんと首を傾げたあたしに――カイ先輩の目がにやりと笑った。


「あの500円で、おまえが死んだときに保険がおりるようになるんだよ。おまえが助手席に乗って、おれが事故ったときな」



……笑えないです、それ。