「――います」





真正面を見据えたまま、そうはっきりと言ってしまったのは……ただ単に悔しかったから、というだけかもしれない。

こんなに好きなのに、あたしのこと、これっぽちも考えてくれてないカイ先輩なんて大嫌いだ。


「……ふうん。そっか……」


膝に握り拳を作って、あたしはうつむいた。

信号が青になって、再び景色がゆっくりと動きだす。


「どんなヤツ?」


――あたしの隣で、呑気に煙草を吸いながら片手運転してるヤツ、です。


「ナイショ……です」


「おれも知ってる人?」


知ってるもなにも――ひどいよね、カイ先輩って。


「……ヒミツ、です」


次々に飛んでくる質問を曖昧に返して、あたしはまた窓の外の移り行く街並みに目を奪われていた。


「オンナノコは難しいな」


「……ふふ、そうですよ」


市内を抜け、徐々に山道にさしかかり、街灯もどんどん少なくなっていく。


昔からドライブは好きだ。

なんにも考えずに窓の外を眺めていたら――現実も、忘れることが出来てしまうから。