あたしにとって、森川さんという人は――部室でいちばん敬遠していた存在。

なぜかって、それは……あたしが森川さんに、嫌われてる気がしていたから。


兄にくっついて部室に出入りするようになり、はや1年半。

その間、まともな会話をしたことは……ほぼ、無いに等しい。

“お疲れ様です”のあいさつと、この前ぶつかりそうになったときの“ごめんなさい”――だけ。


声をかけられたこともないし、まともに喋ってもらえたこともない。









「――――……」


誰のものかわからないタオルで、ひとしきり泣かせてもらっていた間、運良く部室からは誰も出てこなかった。

腫れぼったい目をタオルで隠しながら、一瞬だけ、プレハブの部室のドアを開けた。


「お疲れさまでした!じゃ、もう帰ります」


みんなはゲームに夢中で、うぃーすと、生返事をするだけで、誰もあたしを振り向こうとはしない。

でも逆に、それが今のあたしには好都合だった。


ただひとり――森川さんだけが、あたしをちらりと横目で見た気がした。