「兄貴がね、中林のこと心配してたの。風邪で寝込んだって、聞いたから」


意外な言葉に、あたしはリュウくんを見上げた。


「なんか、台風の日に連れ回したんだって?悪いことしたな、って、言ってた」


「ああ……でも、“連れ回した”だなんて……」


あたしはあの夜のことを思い出して、うつむいた。

そんなあたしを見て、リュウくんは静かにつぶやいた。


「――兄貴のこと、聞いたよ」


「え……?」


「兄貴、カノジョにフラレたんだってね。おれも最近聞いたよ」


カイさんは――弟のリュウくんにさえも、サユリさんと別れたこと話してなかったんだ……。


「“関係ない薫にも迷惑かけた”って、兄貴が反省してた」


「――ううん!そんなこと……」


そんなこと、ない。

あたしはただ、カイ先輩のことが好きなだけ。

あたしはただ、大好きなカイ先輩の――ちからに、なりたかっただけ。


この言い表すことのできない、せつない想いは――どうすれば、いいのだろう。