こうして、カイ先輩の腕に抱かれる日を、
あたしはどれだけ夢見てきただろう。


いつか感じた、あの胸を焦がすような嫉妬や嫌悪感は、もうない。

ただ、カイ先輩を信じてすべてを委ねるだけ。





「怖くない……?」


「……大丈夫」


「ヤメテ、って言っても、もうやめてやんないからな」


「ふふ、……はい…………」








きつく握りしめられた手を、もう絶対に離したくないと、強く思った。

この人の、過去も、今も、未来も――全部、一緒に共有したいと心から思った。

彼の一番近くにいて、
あたしがカイ先輩の傷を消してみせるんだ。









「……薫」


低い声で名を呼ばれて、乱れた息を整えながら、顔をあげた。

あたしが胸いっぱいに空気を吸い込む暇もなく、またくちびるが塞がれる。


誰よりも過去に囚われ続ける自分自身を、あたしはようやく捨て去ることが出来たのかもしれない。






「どうした?」


泣きそうになったあたしの顔を、不安げにカイ先輩がのぞきこむ。

あたしはぎゅっと彼の背中に抱きついて、なみだをこらえていた。



「ずっと……そばにいたいです……」