どうして、そんな顔をするの?



カイ先輩の肩越しに、あたしは揺れる彼の髪を見つめていた。

光を通して――綺麗なアッシュ色に透けて見える。


「薫……ごめん。つらい思いさせて……」


そう言うと、先輩はさらに力を込めてあたしを抱きしめた。

いつも吸ってる煙草のにおいと、カイ先輩のにおいに包み込まれて――あたしはようやく、麻痺していた全身の感覚が戻ったような気分だった。


その途端、心のどこかでずっとこらえていたなみだが、せきを切ったようにあふれ出して、頬を伝い落ちた。


「ごめん……もう全部、終わったから」



「あたしは……大丈夫……」


「大丈夫じゃないだろ……もうなにがあっても、絶対ひとりで悩むな。頼むから、おれを頼ってくれ」





幸せな夢から醒めてしまうんだと思っていた。

でもそれは、
悪い夢からようやく目覚めただけだったのかもしれない――…





「おれはおまえとずっと一緒にいたいから――…」