ハンドルに顔を伏せたカイ先輩を、あたしは何も言えずに見つめていた。


「おれが大学を卒業したら、サユリのいるとこまで行くつもりだった。一緒に暮らそう、って、約束してたのに……」


高校の時から一緒にいるふたりの間は、あたしでは計りしれないほどの強い絆があったのに。


無意識に先輩が、親指で薬指をなでるしぐさをした。

しかしもうそこには、あたしの見慣れたブロンズ色の指輪はない。


「ちょっと遠距離になったくらいで壊れるほどの、安い関係じゃないって信じてたんだけどな」


そう言って先輩は、低い天井を見上げて大きなため息をついた。


先輩が、指輪をはずしたということは――少しは、彼女との別れをふりきりつつあるのだろうか。


「思う存分、グチを言いたいのに――やっぱりそれは出来ないんだよな。

まだ好きな気持ちが残ってて……まだどこかで、やり直せるんじゃないかって期待してる自分がいるんだよ……」


泣けない先輩の代わりに、あたしの両頬から、なみだがこぼれ落ちていた。