「中林……!?」


カイ先輩のマンションに上がり、一番驚いていたのは、あたしよりも早く学校から帰っていたリュウくんだった。

あたしを指さしたまま、リビングのソファの前で、銅像みたいに固まってる。


何か言いたげな瞳――それはあたしも一緒だよ。

なんであたしがこの部屋にいるのか、あたし自身が一番わかっていない。


「リュウ、これで頼む」


と、カイ先輩はリュウくんに賄賂を渡している。

現金を受け取ったリュウくんは、あたしとカイ先輩を交互にちらちら見た後――あたしの肩をぽんと叩いて、どこかへ出かけてしまった。


「じゃあ……部屋、入って」


玄関のドアがバタンとしまった音で、ふたりきりという現実に一気に引き戻された。

心拍数が跳ね上がり、あたしは息をするのもやっとだった。


これから、とうとう幸せな夢から醒めてしまうんだ。




「適当に座りなよ」


カイ先輩の部屋の入口で立ち尽くしたままのあたしを見かねて、カイ先輩がぎこちなく笑いかけた。