「……久しぶり」


まさか、あんなに好きだった人の声を聞き間違えるなんて。

目の前にカイ先輩が立っていることよりも、そちらのほうに驚いてしまった。


「……お久しぶり……です」


あたしはまともにカイ先輩の顔が見れなくって、うつむいたまま、その場を立ち去ろうとした。


「待てよ。話がしたい」


出来ることなら逃げてしまいたい、そんなあたしのあさはかな考えは、カイ先輩の前では通用しなかった。

きつく腕をつかまれ、あたしはすっかり逃げ場を失った。


「ちゃんと……話をしよう」


ああ、別れ話なんだな、と、

あたしは直感的に悟った。


横に停めてあったローレルに、カイ先輩にうながされるまま乗り込んだ。

この車の中で、サユリさんとカイ先輩はどんな話をしたんだろうと考えただけで、吐き気のような嫌悪感しか浮かばなかった。


「おれんちで、いい?」


あたしは特に、うなずきもせずになにも言わなかった。

ただ、カイ先輩の家に、もはや彼女でもないあたしが上がってしまっていいのだろうか、と、ぼんやり考えていた。