「中林はやっぱり、兄貴じゃなきゃダメなの?」


「……わかんない……いつかは忘れられるかもしれないけど、でも今は、まだ」


頬杖をつき、街を歩く人の流れを見ていたら――なんだか自分だけ、取り残されているような気分になる。

まるであたしだけ、時間が止まってしまったよう。



「……森川さんのほうが、絶対いい男だって」


リュウくんが、納得いかない、と言わんばかりにつぶやいた。


「おれ……なんとなく気づいたんだよ、森川さんのこと。中林だって、森川さんの気持ち知ってんだろ?」


あたしは曖昧に笑って、言葉を濁した。

そんなあたしを見て、なおも不機嫌そうにリュウくんは続けた。


「だってさ、森川さんって言うことないじゃん?
顔はかっこいいし、背だって兄貴より高いし、なにより、兄貴なんかより何十倍も中林のこと大事にしてくれるよ?」


たしかにそうかもなあ、と、思わずあたしも苦笑していた。