遠い昔、“お母さん”が、あたしやお父さんを残してこの家から消えてしまった理由が、

ようやく今、なんとなく、わかった気がした。



死んだ母の思い出がすみずみに残る家で、死んだ母の忘れ形見である、お兄ちゃんとあたし。

どういう胸のうちで、後妻であるお母さんは、お父さんを、あたしを、

お父さんの後ろに見える母を――見ていたんだろう。





カイ先輩も、お父さんも――過去の人に、まだ心を囚われている。

勝てるはずがないのだ。

思い出は、消すことが出来ないのだから。















結局、あれ以来カイ先輩からの連絡はない。

きっとこのまま、“自然消滅”という形で終わるんだろう。


連絡が来ないことをほっとしつつも、心のどこかで、カイ先輩からの電話を待っているあたしが、自分でも嫌になる。

自ら、カイ先輩への未練を断ち切ったはずなのに。