カイ先輩は凍りついたように、部室の玄関のところに立ち尽くしている。

後ろにいる森川さんは、どんな顔でこの滑稽な場面を見ているのだろうか。

彼を巻き込んでしまったことを、申し訳なく思った。


「――サユリさんと会ってたんでしょ?」


カイ先輩はなにも言わなかった。

いや、“なにも言えなかった”のかもしれない。


「あたしに同情してくれてるのなら……もういいんです。あたしは、ひとりでも大丈夫、です……」






遠い昔のこと。

“お母さん”が、蒸発した日。

昨日までリビングで一緒に笑っていたお母さんが、忽然と姿を消した。

あたしは泣きわめき、お母さんを探した。


大好きな人に捨てられる孤独を、苦しみを、痛みを――はじめて知った。






捨てられるのが怖かった。


大好きな人が、
もうあたしの名を呼んでくれなくなるのが、
もうあたしに触れてくれなくなるのが、

たまらなく怖かった。



だから――必死に繋ぎ止めようとしていた。