「……で、中林さんはなんて言い返したの?」


「――なにも……」


小さく首をふって苦笑したあたしに、森川さんはため息をついた。


「言ってやればよかったんだよ。カイはもうあなたのものじゃないって」


「でも……やっぱりカイ先輩はあたしのものでもないし……」


「じゃあ誰の彼氏なんだよ」


「…………」


あたしの彼氏だ、と、自信を持つことなんて、もはやあたしには無理だった。


さっきから、堂々巡りばかりを繰り返している。

温厚な森川さんが、珍しく少しだけイラついている様子だった。

そりゃあ……あたしのせいだ。


「自信を持てよ……何のために、おれが引いたと思ってる?」


「――」


何も言えなかった。

部室のソファにひとり分の距離をあけて座っているから、お互いの顔は横を向かなきゃ見えない。


今のあたしはその微妙な位置関係に助けられていた。

あたしは、森川さんの顔が怖くて見れなかった。