「あの……」


あたしはさっきより、幾分か落ち着きを取り戻していた。


「カイ先輩は……なんて言ってるんですか……?この前、会ったんですよね」


するとサユリさんは、ひどく驚いた様子であたしを見た。

その顔はまさに蒼白で、なみだがたくさんたまった目だけが、赤く充血していた。


「どうして知ってるの……?」


「知り合いが、たまたま見たんです。それで、あたしにも話が回ってきて……」


と、あたしは苦笑したのだが、サユリさんはずいぶんと狼狽していた。

どうやらサユリさんは、その密会をあたしには隠すつもりだったらしかった。

ごめんなさい、とまた小さくつぶやいたあと、彼女は静かに話し始めた。


「カイには……特になにも言われなかった。
ただ、もうおれたちは終わったんだよ、って……」





意外だった。

あたしはてっきり、ふたり手をとり合って、逢瀬を重ねているものだと思っていたから。