先輩があの日よりは、少しは元気になっていてくれてる気がした。


「隼人、今日は10時までって言ってたぞ。おまえどうすんの?」


「10時かあ……じゃあもう、おとなしくバスか電車で帰ります」


お兄ちゃんは、大学から少し離れたガソリンスタンドで、バイトをしている。

そんな兄貴が、バイト先からわざわざ部室に戻ってくる保証もないので、あたしは重い腰を上げた。


「家まで送ってやるよ。どうせおれも帰るし」


「――いいんですか?」


「だって、この雨だぞ。電車とかもう止まってるんじゃね?」


そっと部室のドアを開けると、雨はさっきよりもひどいどしゃ降りになっている。


「なんかすみません。お願いします」


「……ついでにメシでも食いに行くか」


そう言って立ち上がったカイ先輩の後ろ姿を、あたしは慌てて追いかけた。


「――っ、焼肉がいいです!」


「あほか!」


プレハブの部室から、ガレージ前に停めてある先輩の車まで、ふたり笑いながら、濡れて走った。