「そんな顔しないで」


森川さんは困ったように笑った。


「ごめんなさい……こんなことでまで、森川さんに迷惑かけてしまって……」


申し訳なさで、胸がいっぱいになった。

別れた元カレに、今の彼氏のことを相談するなんて――最低だ。


「――いや……頼ってくれるのは嬉しいよ。おれも、嫌われてなかったんだなあ、って」





7時をすぎ、お客さんがさらに増え始めたので、あたしたちは早々と席を立った。

伝票を持ち、あたしより先にレジに向かっている森川さんを慌てて追いかけてるときに――あたしのケータイが鳴った。


カバンから取り出すと、ディスプレイには知らない番号が並んでいる。


「――はい……」


『あ、あの……中林さんのケータイでしょうか?』


若い女の人の声に、全く聞き覚えはなかった。

会計を済ませた森川さんが、コートを羽織りながらこちらを見た。


「はい……中林ですが……」


森川さんと目が合い、その瞬間、あたしは妙な胸騒ぎに襲われた。








『あの、わたし……真山さゆりと申します』







森川さんと見つめ合ったまま――あたしの時間だけが、止まった。