「あ……すみません!急に押しかけて……」


森川さんはひどく驚いた様子だった。

でもすぐにあたしから目を反らし、停めていた自転車のハンドルにカバンを掛けた。


「あの……少しだけ、お時間もらえませんか?聞きたいことがあるんです」


勘のいい森川さんは、あたしの言いたいことなど全部お見通しのようで、小さなため息をついてうなずいた。


「リュウには口止めしたんだけど――リュウに相談したおれが馬鹿だった」


「……」


「ファミレスでいい?おれの家にあげるわけにもいかないから」


森川さんは少しだけ寂しそうに笑って言った。

思えば、森川さんの彼女じゃなくなってから――まともに彼と会話したのは初めてのことだった。


あたしも小さくうなずいて、自転車を押して歩きはじめた森川さんの後を追った。