バスを降りて、少し坂を登って歩いた。

真冬だったけれど、とても日差しのあたたかい日で、あたしは着せてもらったコートを脱いで走りまわっていた。


『あ、待って薫ちゃん。わたしね、ちょっと寄り道したいところがあるの』


『どこ?』


『お花屋さん』





再び大通り沿いを歩き、見つけた花屋に入った。


『薫ちゃんが選んで』


お母さんの言葉に、あたしは目を輝かせて、

店に入った瞬間から気に入っていた淡い桃色の花を指さした。


『これがいい!』


お母さんはにっこり笑って、桃色の百合の花を数本、店員さんに手渡した。





新聞紙でざっとくるまれただけの百合の花束を持って、お母さんとあたしは手をつないで坂を登った。


『今日はあったかいね』


『うん、あつい』


『薫ちゃんは誕生日プレゼント、なにが欲しい?』


『えっとね……変身ブローチ!あと、お母さんの作ったケーキ!』


あたしがそう言ったら、お母さんがなんだかすごく嬉しそうな顔をした覚えがある。