「森川さんが……兄貴とサユリが会ってるところを見たらしい」


リュウくんは向かいのソファにぐったりと倒れ込むように座り、力なく続けた。


「森川さんが、中林のこと、心配してた」


森川さんの名前を聞いて――胸の奥が、一瞬ちくりと痛んだ。

淡い思い出が一気に蘇り、頭の奥がずきずきと痛みを訴え始める。


消えてしまいたかった。



「だからさ……おれ、もうやめたがいいと思うんだよ。兄貴のことなんて。
中林が、本気になる前に」




――もう遅い。

そんな忠告……もう今さら遅い。


“本気”になる前に、この気持ちを捨て去ることが出来たら、どんなに楽だろう。





「兄貴は――ずっと、サユリ一筋だった。
どんだけドリフトで遊ぼうと、どんだけ車イジリに熱中しようと――なによりやっぱりサユリが一番だった。

兄貴の中で、サユリは、死ぬまで消えない存在なんだよ」





母の墓参りに行った、

あたしのことをしっかりと抱きしめてくれたあの日のことが――遠い昔の話のように思えた。