時計を見上げたカイ先輩が、立ち上がって静かに言った。


「お母さんの、お墓参り、行こっか」


思いがけない言葉に戸惑いつつも、あたしはなみだをぬぐいながらうなずいた。





街と、街中に流れる川から続く海を見下ろすように、高台の上に母の墓は立っている。

途中で買った花と、線香を供えようと墓に近づいたカイ先輩が、少し笑ってあたしのほうを振り返った。


墓の花瓶には、もうすでに先客がいた。

きっと――お父さんに違いない。



「お父さんとは……一緒にお墓参りする約束とかは、してなかったの?」


ふたりで手を合わせていたら、カイ先輩が、ぽつりとつぶやいた。


「――正直……あんまり、お墓参りに来たことがないんです」


あたしは苦笑した。

母の墓の前に来たことは、数えるほどしかない。


「お父さんは、こんなふうに命日や盆正月とかによく来てるみたいですけど……あたしは、どうしても、」


母と向き合うのが、怖かったからなのかもしれない。