「指輪、買わない?」


それは、突然のことだった。

賑わう街を、特に目的もないまま手をつないでぶらぶらしていたとき。


「……指輪、ですか……」


あたしは返答に困ってしまった。

指輪は正直、身につけたくなかった。


もちろん、友達の中には、彼氏から指輪をもらってる子だっているし、それをうらやましくも思うし、

別に今さら、お父さんの反応を恐れているわけではない。


「――いや?」


「あ……あたし、あんまりお金持ってないし……」


「おまえは金出さなくていいんだよ。デザイン選ぶだけでいーの」


ますます返答に困ってしまい、あたしは口ごもった。


指輪といったら――あたしの頭の中には、ブロンズ色の細身の指輪しか思い浮かばない。

なかなか見かけない、綺麗な赤銅色。


つい3ヶ月前まで――カイ先輩の右の薬指を、独り占めしていたもの。





「なんだか、指輪って重たい意味になりそうだから……」


ほんとは欲しいのに、あたしの中の臆病な自分が――それを邪魔していた。