『――だから遅くなったんだ?電話』


部屋に戻ると、最近の日課になっているカイ先輩からの着信が、あたしを待っていた。


「そうなんです……お兄ちゃんが余計なこと言うから」


『はは、おれも親父さんに気に入ってもらえるようにせんとなあ。今度、スーツ着て菓子折りでも持ってお邪魔するか』


「……そんなことしたら、たぶんうちのパパ、失神しますよ」


あの告白の日から、一日も欠かすことなくかかってくる電話。

正直、特にまだなんの発展もないけれど、あたしはそれだけで幸せだった。


「カイ先輩は何してたんですか?」


『ん――特に何もしてない。ベッドの上でごろごろ』


その何気ない質問でさえも、恋人同士だからこそ許される会話。

それが改めて嬉しくて、あたしは自分の部屋の中でひとりにやけていた。


『ごろごろしながら……薫のこと考えて、はやく電話かけ直してくれないかな、って……待ってた』


そして、あたしはそんなカイ先輩の言葉にどきどきして、夜も眠れなくなってしまうのだ。

電話口の向こう、カイ先輩はにやにやしながら――あたしをからかっているというのに。