「あたしの玉のほうが、カイ先輩のよりおっきい」


そんなことを言ったら、先輩の火の玉はぽとりと地面に落ちてしまった。


「おれなんか2個いっぺんに火ぃつけちゃうもんね」


先輩は悔しそうに、2本かさねて火をつけた。

さっきよりも大きく火花が飛んだあと、みるみるうちに火の玉が膨らんでいく。


「カイさん、それはずるいです」


「ほら、勝った」


でもすぐにまた火の玉は落ちて、あたしはくすくすと笑った。

幸せな時間が――このままずっと続けばいいのに。


でも、あたしのそんなささやかな願いは――カイ先輩の、意外な言葉で打ち破られる。

そしてこれからのあたしに、一波乱をもたらすことになろうとは、この時のあたしは思ってもみなかった。


「あのさぁ、薫」


「……はい?」


先輩は、消えてしまった線香花火を見つめたまま――静かにつぶやいた。





「おれ……彼女と別れたんだ」









ふたりの間の刻が、止まった。