メールの送り主はすぐにわかった。

あたしは、森川さんに感づかれぬようにしたつもりだったのだが、

淡いピンク色に光ったイルミネーションに、彼はすべてを悟ったらしい。


「――ほら、早く帰らないと。心配されるよ」


外はまだ7時。

あたしは、小さくうなずいて立ち上がった。





「じゃあね、中林さん」


最後まで泣かないと決めたはずだったのに、あたしはぎゅうと胸が苦しくなった。

彼が、あたしとの付き合いを誰にも言おうとしなかったのも、

一度もあたしの身体に触れようとしなかったのも、

いつかこんな日が来ることを、知っていたからなのだろうか。



不器用で、でも繊細な森川さんを――あたしは、ほんとうに好きだった。



かりそめの関係で、彼を裏切ったあたしが言える言葉じゃないかもしれない。

それでも、あたしは、あたしなりに――彼のことが、好きだった。





「カイ先輩と、仲良くね」


玄関先まで見送ってくれた彼に背を向けて、あたしは歩き出した。

なみだでぼやける地面を、一歩一歩踏みしめながら。