「花火、しようか」


小さくつぶやいたカイ先輩の顔は暗くてよく見えなかったけれど、さっきあんだけはしゃいでいた先輩とは別人のような気がして――あたしはどきりとした。

慌ててうなずいて、改めて見つめたカイ先輩の顔は、やっぱり憂いを帯びていて、あたしが今まで見たことのない、新たな一面のようだった。


「仕方ないからなぁ。お子ちゃまに付き合ってやるか」


「カイ先輩までそんな……ひどいですっ」


歩き出した先輩は、もういつものカイ先輩に戻っていた。


先輩のライターを借りて、一度消してしまったロウソクに火をともす。

ふたりで火を囲んで、そおっと、こよりの先に火をつけた。


「やっぱり、最後のしめは線香花火ですよね」


あたしは先輩の隣にいられることが嬉しくてしょうがなかった。

部室のガレージの前、カイ先輩とふたりきりで、パチパチと線香花火の光を見つめている。


プレハブの部室の中からは、みんなの笑い声が聞こえてくるけれど、それさえも遠く聞こえてしまうくらい、ふたりの間は穏やかだった。