ぽっかりと穴が開いたあたしの心には、これでもう拠り所はなくなってしまった。

あたしはため息をついた。


カイ先輩の新しい恋を、素直に応援できるほど、あたしは出来た人間じゃない。

でも、その新しい恋を素直に邪魔できるほど――あたしは強い人間じゃ、ない。


「……薫」


こうして、名前を呼んでもらえるのも――あと少ししかないのかもしれない。


「あのな、おれ――」


完全にうちのめされたあたしの魂は、もう死んでしまっていた。

カイ先輩の声が、頭に響く感覚はあるけれど、もやがかかったようになって、あまり理解することが出来ない。




気づけば、約束の10分は――もう過ぎていた。

車内の時計を横目で確認する。

もう早く帰りたい。


そんなあたしに気づいたのか、カイ先輩が少しだけ焦ったように話し始めた。


「……ごめん、遅くなって……。でももう一つだけ、聞いてほしいことがある」


強い風の音がして、窓ガラスがちょっとだけ軋んで――あたしの胸がざわついた。