その時、森川さんが、笑った。

まるで、ふたりの関係が始まったあの日のような――儚い、今にも壊れそうな笑顔で。



「……ずっと、好きだったよ」



森川さんはあたしの頬に手をあてた。

あたしの上気した頬から――彼の冷たい指先へと、熱が、奪い取られていく。



はじめて、
彼の口から聞いた

“好き”の言葉。



ようやく解かれた両腕は、じんじんと疼き、それがまたさらに、あたしの心を責め立てた。

彼はあたしから身体を離し、すぐに背を向けようとした。


「待って――……」


言いようのない想いに駆られ、あたしはなりふり構わず彼に抱きついた。

森川さんはまた困ったように笑って、今度はしっかりと、優しく、あたしを抱きしめてくれた。


「ごめんなさい……っ」


なみだが止まらなくなり、あたしは彼の胸の中で泣きじゃくった。

ようやく、森川さんという人の、すべてを知ることが出来たような気がした。