その綺麗な笑顔を、ぼんやりと頭の中に思い浮かべていたら、


「おい薫、花火しねぇの?」


目の前に、ねずみ花火が差し出された。


「やりますけど……普通、女の子にねずみ花火渡します?」


「あれ、女の子って、どこ?」


辺りをキョロキョロと見回すフリをしたカイ先輩をにらんで、花火を奪ってあたしは火をつけた。


「ごめんってば!ちょっと待てって!」


そのままカイ先輩の方へ投げつけてやったら、花火はくるくると回りながら、見事にカイ先輩を追いかけている。

久しぶりに大声で笑って、あたしは普段の苦しさや切なさなんかを忘れていた。


今年は、サユリさん、来ないんだろうなあ。

今年は――先輩との夏を、ちょっとだけ、独り占めできた気分。


報われなくてもいいから……あともう少しだけ、カイ先輩の笑顔を見ていたい。

それが例え、あたしに向けられた微笑みじゃないとしても。