一度家に帰るべきか、迷った。

シワだらけの制服じゃあ、森川さんが変に思ってしまう。


でも、一刻も早く彼に会いたかった。

森川さんに会って、あの優しい笑顔に抱きしめてもらって――あたしの胸に湧いた不安を、早く消してしまいたい。


ガレージにある洗面台で顔を洗ったら、頭の中が少しはすっきりした。

寝不足で腫れた目を冷やして、あたしは部室に戻った。

カイ先輩に、書き置きだけを残して、カバンを取った。









大学から歩いて10分の森川さんのマンションまで歩いていく間、あたしの心は不思議と穏やかだった。

こんな朝早くからあたしを呼び出した理由はわからない。

けれど、彼とのふたりきりで過ごす時間を、あたしは待ち望んでいた。



――ときどき、自分でも自分が、わからなくなる事がある。



小鳥がさえずる、冬の朝は、なんだかいつもより景色が鮮やかに見えるような気がした。

白い息が朝日を受けてきらきらと輝く。


ただ――昨夜、自転車とぶつかりそうになった場所を通ったとき、あたしの胸が小さく騒いだ。