「あ……あの……タオル、借りちゃったときのことですか……?」


思わぬ言葉に、あたしはしどろもどろになった。

そんな、泣きそうな顔なんて――思いあたるのは、森川さんのタオルを借りてガレージで泣いてしまったあのときのこと。

やっぱりあの日、森川さんはあたしが泣いてたのを知ってたんだ。


「――うん、でも一番ひっかかったのは……去年の夏」


「夏……?」


射るような瞳から、あたしは目をそらせなくなっていた。








「去年の夏の、草刈りの日。

差し入れ持ってきたサユリさんを、薫は泣きそうな顔で見てた」










シロが、くうん、と鳴いた。

自分の尻尾を撫でなくなった手を、不思議がって――心配してるみたいに。


「――――」


固まってしまったあたしの手を、シロがぺろぺろとなめる。

シロの鼻先から押し付けられるぬくもりも――凍ってしまったあたしには、感じられなかった。


森川さんの目を見つめたまま、あたしは動けなくなった。