ある日のこと。
いつも通りに、電車に乗り込んだ私。
平岡 梓紗-azusa hiraoka-
高校生になったばかりの私は、電車通学は初めて。
だけど…
さっきから、凄く違和感がある。
もしかして…と思って
少し移動してみると、触られてる感覚が無くなった。
やっぱり…
痴漢だった。
嫌だな…
とかひとりで思ってると
また触れてくる。
ヤバイです。
こんな満員電車の中
「助けて」
なんて叫べないし…。
我慢、するしかないかな…。
と、思ってると。
「おっさん、趣味悪!!」
と吐き出しながら、笑う男性がいた。
「お、俺はっ、なにもっ!!」
超超、焦り周りを見るオヤジ。
いやいやいやっ!!
今私のお尻触ったよね!!うん!!
「えーなに、痴漢?かわいそー」
ほんとだよ!!
超可哀想!!
「す、すみません、でしたっぁ!!」
最後に私に謝って、去っていくオヤジ。
オヤジの趣味はこれか。
「大丈夫?」
ひとり心の中で、ブチギレてると
私の視界に、ちょうドアップで映る男の人の顔。
「えっ…あ…はい…」
その顔に目を奪われる。
これが世にもいう…
イケメン…って事なのか…。
「大丈夫そうに見えて、超震えてるんだもん。ぜってぇー、俺以外も気付いてんのに、なんで助けてやらないんだよ」
「あ、まじすか、そんな震えてましたか」
その人に言われて、初めて自分が震えてるのに気がつく。
ほ、ほんとだ…。
「あ、あの」
「ん?」
目が合うと、微妙に心拍数が早くなる。
「助けてくれて…ありがと…ございます」
「いえいえ。
助けて欲しい時は、誰かを頼るんだよ」
「は、はい」
それが、最後の会話だった。
目的地の駅に着くと、どの方向に高校があるのか直前で迷う。
「やべ」
そう言って、立ち尽くしてると、
「君、1人?」
「え?」
急に声をかけられて、振り向いてみると
制服を荒く着た、不良たちがいる。
「あれ、超可愛いじゃん」
痴漢の次は、ナンパっ!?
どんだけ、運悪いの~!!
「はい、1人ですが」
予想のない答えを言う私に、驚く不良たち。
ははははっ!!!
「素直だねぇ〜。お兄ちゃん達と遊びに行かない?」
「結構です」
冷たい目線は効かないか…。
慣れてそうだもんね、
「そんな事言わないでさ~、どこにでも連れてってあげるから」
うっそ!!
まじで!!
「ホントですか!?
じゃ、まず成瀬高校の場所教えてください!!
その後、オーストラリアに行きたいです!
あ、ディズニーランドでもシーでも!!」
「え、わ…おい!!帰るぞ!!!」
えぇ
どこにでも連れてってあげるから
って言ったのに。
嘘つき不良どもめ。
「なに?梓紗ってばナンパされたの?」
「朱里だ!そーなんだよ、電車では痴漢にあったんだから!!」
「あっ、ちょ、声でか!!」
と言われ、頭をコツんと叩かれる。
周りを見れば、苦笑いをしながらこちらを見ている人数名。
お恥ずかしい…。
「あのね!」
「その話は、学校着いてからね」
「えぇぇぇぇぇ」
やべ、文句言っちゃった!
朱里に文句言うと、すーぐ拗ねるから…。
「文句あるなら、もう二度と一緒に行ってあげないから」
えぇ!!
「わ、分かったよ!ごめんね!!」
「うん、分かったならいい。エラいぞ」
そう言って、朱里は私の頭をそっと撫でる。
“朱里”と言うのは、親友で私の幼なじみでもある…
杉咲 朱里 -akari sugisaki-
もう、わたしの姉のような存在。
「梓紗の事だから、駅を出たところで学校分からなかったんでしょ?」
「おぉ!良くおわかりで!!」
さっすが私の姉!!
じゃ、ないけど…
「ところで、明葵は?」
「あぁ~、明葵ね。
たしか、さっき…LINEが…」
とか言って、スクバをゴソゴソと漁りだす。
「やべ、スマホ忘れたかも〜」
「えぇ!?」
携帯忘れて、そんな軽々なの!?
「梓紗。
連絡をするんだ!明葵に!!」
でたよ!
自分がめんどくさいからって!
こういう場合は、本当は持ってきてるんだよね。
「へーへ」
嫌々ぽく受け入れると、満足そうな顔をする。
たまにそれが、イラッと来るんだよね。
LINEを開き、
「aoi」と書いてある、トークを開く。
aoi
今、朱里と駅にいるんだけど、明葵どこ?>
送信すると、5秒後に返信がくる。
はや。
<え、まだ私電車だよ。
駅に着くの早くない?
「え、まだ電車なの…?」
これだから、方向音痴は!!!
その電車、絶対違う駅に着くよ〜!
いやいや、逆に。
着くの遅くない!?絶対違う駅に着くよ!>
と送ると
3秒で返信がくる
<……(´;ω;`)ウゥゥ 私、遅刻…?
はぁ?とにかく、次の駅なに?>
まだ、時間はあるけど…。
イケメン探しはどうなったのよ。
言い出しっぺ明葵だよ
明葵は、イケメン好きだから。
あ、明葵って言うのは
イツメン好きで私の幼なじみ。
間宮 明葵-aoi mamiya-
方向音痴で優柔不断。
しかも、どこか抜けてる。
とことん、地味な女の子。
だけど、ほっとけないからって理由で私達がずっと守ってきた。
だけど、明葵にも好きな人が出来たんだ。
そんなへぼい理由で
進学高校をきめた。
たまたま持ってた、明葵の写真を見せて
「このくらいの背でこんな子見ませんでした??」
と駆け回る私と朱里。
いない…。
「朱里。
学校に電話したほうが…」
「て、言っても…
電話番号知らないし!!!」
あ、そうだった!
知らないんじゃ…意味無いよ。
「はぁ……」
そうため息を付いたきり、一向にしゃべらなくなる朱里。
「あか、り?」
恐る恐る聞いてみると
ひらめいた顔をして私を見てくる。
なんか変な無茶ぶり辞めてよ~
「梓紗!学校先に行ってて!」
「へ?」
びっくりして、つい間抜けな声が出てしまう。
「そして、先生に伝えるの!
おねがい!!」
両手を前にして、目をつぶってお願いされる。
「え…っと…朱里は?どうするの?」
「その間、ずっと探してるから。
もし、見たって人いたら連絡するから。
とにかく、梓紗は先生に2人遅れますって伝えて!」
「え。あ…う、うん!」
焦りながらもスクバを持ち直して、全力ダッシュをする。