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奥さんと旅行中だと聞いていたが、どうやら奥さんは用があって先にカフェに戻ったらしい。
それで1人歩いていたオーナーは、僕に手を近づけた。
「なんでそんなに辛気臭い顔してんだ」
「うぅ〜」
うりゃっ、と頬を摘まれ、ぐにぐにと引っ張られる。
「で、何があった?」
オーナーは歯を出して笑って僕の頬から手を離した。
僕の顔を見るなり心配してくれて、この人にはバレバレだなぁ、と思った。
そんな彼になら、この悩みを話せるし、きっとちゃんと聞いてもらえる。
「実は……」
悩んでいたレティシアとフリュイのことを僕はオーナーに話した。
「あっはははははっ!」
話し終えると、オーナーは楽しそうにゲラゲラと笑い始めた。
ちょっと。
僕は真剣に悩んでいるのに。
「そんな顔するなよ、これはすぐ解決出来る問題だからさ」
「えっ、すぐ?」
「すぐだよ、すぐすぐ」
「なに、なになに教えてよ!」
ぐいぐいオーナーに顔を寄せて問い詰める僕に、オーナーはまたキラキラな笑顔で言い放った。
「欲張ればいいんだ!」
よくばる?
欲張る……?
「どういうこと?」
「つまりは、こういうこと」
オーナーがしゃがみこんで、近くに落ちていた木の枝を拾った。
その枝で、土の上に絵を描いていく。
「これがレティシアね」
「うん」
ざっとオーナーがゆるふわな長い髪の女の子を描く。
「それで、こっちがフリュイくんね」
「うん」
短いくるくるの髪に短パンの少年。