すがりたい対象など、最初から一人だけ。
あげはは珠喜の胸に顔を押しあてる。
「甘えん坊ね、本当に」
「……わかってます……。だから姐さん、私の願いをひとつ、きいてくれませんか?」
「ええ。──なぁに?」
あげはは顔を上げると、珠喜と視線を重ねた。
「……私を、ずっと忘れないでください。殿方の一番は貞臣の旦那様でいい。……でも、女の一番はあげはにしてください」
それは、今までに聞いたことがないくらいハッキリとした口調だった。
よほど真剣なのだ、と珠喜は唾を飲んだ。
「……もちろんよ。あげはより大切な子なんて、わたくしにはいないもの」
あげはは花街の中で本当の女になった。それを彼女の色香が示している。
それはきっと狂わせる。
男も、女でさえも。