客が帰ると、珠喜は楼主の元へ向かった。


「どういうことですか!?わたくしに何の断りもなくあげはの初売りを決めるなんて……!」


耳が痛いほどの金切り声だったに違いない。

それほど珠喜は必死だった。


「お止め、珠喜」


女将の制止を振り切り、珠喜はなおも続けた。


「約束ではなかったの!?あの娘だけはわたくしに一言相談すると……!」


「珠喜!」


ピシャリと軽快な音が響き、辺りに一時の静寂が訪れた。


「──珠喜」


それまで黙っていた楼主が、ゆっくりと立ち上がり、項垂れている珠喜の髪を乱暴に掴み上を向かせた。


「つけ上がるな。太夫、籠姫といえど所詮お前は女郎。籠女で居る限り儂に逆らいはさせぬ」


「……っ!」