珠喜の昼見世は、決まって貞臣しか客をとらない。
これも籠姫だけの特権のようなもので、夜見世で普通に客の相手をすれば少しぐらいの我儘は問題にならないのだ。
「珠喜、今日はえらくご機嫌じゃないか」
「そう見えるなら……それは隣に旦那様が居るから、ですわ」
「そうかそうか。可愛いのう、珠喜は」
最近になって、嘘が少しだけ得意になった。
顔面に張り付けた偽りの笑顔は、きっと一生剥がれないだろう。
「そうだ珠喜。お前の所にあげはという新造がいるな?」
「ええ。──それが、何か?」
「前から目をつけておってな。もう楼主に初売りの話はつけてあるんだが……。お前が大層可愛がっていると聞いてな」
キリ……と徳利(とっくり)に爪が食い込んだ。