これが泡沫(うたかた)の夢だったらいい。

だが、そんなちっぽけな希望さえも、今はすがる事を許されない。



……りん……りん……



足元に、一つの鈴が転がってきた。

籠女のつける、紅い鈴。


「蝶……子……?」


傍に倒れている蝶子に目をやると、その表情は僅かに微笑んでいた。

そこで気が付く。


この二人の表情は、自ら死を選んだ事を後悔してなどいないようで、むしろ喜んでいるかのように見える。


「そっか……二人で、選んだんだね……」


遙も、満足気に微笑んでいる。

今までで一番、幸せに満たされた表情を浮かべて。

すぐ後ろから、鈴の音が聞こえた。


「──瑪瑙くん?」


「珠喜……さん」


女性は鈴を握り、蝶子の顔を覗き込んだ。


「やっぱり……。あげはなのね」


珠喜は瑪瑙の手にしていた鈴を見ると、目を丸くした。


「その鈴……どこで……?」


「たぶん、彼女の物です」


珠喜はその鈴と自分の鈴を合わせると、形の良い唇を歪めた。