空に桜が舞い散り、花冷える。
「蝶子ちゃんはどうしただろう……」
ふと、小説を書く手を止める。
大丈夫だろうか。
胸騒ぎを感じ、瑪瑙は筆を置く。
「会いに行ってみようかな……」
そう思い立ち、上着を羽織ると部屋を後にした。
町の中がやけにざわつき、人が多い。
遙の屋敷の辺りは、人通りが少ない場所のはずなのに。
(なんだろう、やけに……)
普段静かな場所だけに、少し人が増えただけで鬱陶しく感じてしまう。
《………て……ねぇ》
《………よ。……だったって……》
部分的にしか聞き取れない噂話。
(何の話をしてるんだ?)
《天道寺さん、心中ですって……。……手首を切って……》
《相手は遊女らしいわよ……嫌ねぇ……》
心……中……だって……?
耳を疑った。
いてもたってもいられず、人を掻き分け、進む。
嫌な予感がする。