カッコよく決まったなと満足しているティアに、アンジュが早速抱きついた。


「すごいすごい!
ねね、なにやったの?!あれ‼」

「試合時間10秒…相手が倒れるまでで0.5秒。
明らかに強くなってますよね。
早くて1秒くらいかと思っていたのですが…」


隣でレインがご丁寧にもストップウォッチを見ながら測定時間を教えてくれる。


「相手が速攻で来たからね。
一番近付いたときに眠らせる魔法やっただけよ。
一瞬すぎてちゃんとかかんなかったけど」

「だからかけ直したんだ……。
でもティア、呪文喋ってない……。
ティア、無言魔法出来るの……?」

「そうよ」


ティアのあっさりとした答えに、ユールとレイン、ルカ、ジュニは固まった。

だが、無言魔法を知らないユーリやアンジュ、ユリアはなんのことか分からず首を捻っている。



魔法を使う時は基本呪文を唱える。

だが、呪文は唱えずとも強く念じるだけで魔法を発動させることができる。
それが無言魔法だ。

しかし、無言魔法は強力な精神力や集中力が必要なため、使う人はあまりいない。


試合をするときに呪文を聞かれなければ相手の不意をつけるので有利にはなるが、難しいためただの試合で使う者はいない。

ヴァンパイアやウェアウルフなどと戦争をしていた時代であれば必須だったのだろうが、この平和な時代には、はっきりとした自我を持つ生き物と戦うことなど無い。

故に魔法学校でも高学年にならないと教えないし、ましてや高校までの教育機関では話題にすらならない。
無言魔法の存在を知らない者も多いのだ。



ティアが無言魔法を使ったのは、ひとえにカッコいいところを見せたかった、評価をあげたかったからだった。

要はただの負けず嫌いだった。