幼馴染みが、ある日突然いじめられた。
仲が良かった立花紀子。
優しくて、物腰が柔らかな女の子だった。
大切な幼馴染みだった。
…なのに――――
私は、彼女を助けられなかった。
いじめが始まったのは、小学校の高学年になってから。
優しい紀子は、何を頼まれても
『いやだ』
と、言わなかっ た。
だから、毎日派手な女子のグループにコキ使われてた。
最初こそ声をあげたものの……
「なにあんた、文句あんの?
それともなに?
あの子の代わりにやってくれるの?」
怖くなってしまった。
だから紀子から遠ざかった。
次は自分かもしれない。
そんなのいやだ。
そもそも、紀子がちゃんといやだって言わないのがいけないんじゃん。
それに、いじめてるのは私じゃないし。
私は悪くない。
悪いのは紀子だ。
心の中で、そう自分に暗示をかけて。
「こんなのおかしいよっっ!!!!」
転校生の叫ぶ声。
泣いてないのに、その声は泣いていた。
変だよね、…でも、そう思ったのは私だけじゃない。
だからみんな、黙って聞くんだ。
目を合わせて彼女が言うから。
まっすぐに訴えるから。
心に響いて仕方がない。
傍観者だった、私たちに――――
「紀子!!!!!」
名前を呼んで、気づく。
あぁ、私、あの子の名前、呼んでなかったんだ。
ズキッと胸が痛んだ。
押さえ込んでいた罪悪感が溢れて、堪えきれずに涙が流れた。
それでも私は、行かなくちゃならない。
紀子のもとに。
駆け寄って抱き締める。
一条愛は気をつかってくれたのか、私が叫んだときに紀子から離れていた。
「――――ごめん」
ずっと、言いたかった。
でも、言えなかった。
そして、今もまだ言えていない言葉がある。
「…桃花、ちゃん…」
懐かしい声。
すごく久しぶりだった。
「許して…なんて言わない
私はそれくらい、ひどいことした
紀子を傷つけた!!
大事な…大事な幼馴染みなのに…
…私は、自分のことしか考えてなかった」
怖かったんだ、ずっと。
独りになるのが。
でも今は――――怖くない。
「…紀子」
ずっと、言えなかった言葉がある。
伝えられなかった言葉がある。
それは、自信がなかったから。
でも、今なら言えるよ。
「――――私はもう、逃げないよ」
「桃、花…ちゃん…」
涙で濡れた彼女の瞳が、大きく見開かれた。
そこに、私がうつってる。
「もう逃げない
紀子と一緒にいる
これからは、そばにいるよ」
「っ!!…ありがとう」
空いた穴が塞がった、そんな気がした。