もう外は歩くことさえ困難なほど雨風雷で大荒れだというのに、診療所が心配だからと美波たちの反対を押し切って、ニィニィは台風の中に飛び出して行ってしまったのです。
すぐに戻るからとスマホも持たずに、懐中電灯ひとつだけ持って。
でも、1時間経っても、3時間待っても、ニィニィは帰って来ませんでした。
気付けば夜9時、すでに外は真っ暗で雨も風も勢いを増す一方。
不安で、おそろしくてたまりませんでした。

確かに記憶は戻らずのままだけど、たくさんの葛藤を乗り越えてようやく自分の夢を叶えて、診療所を開設した矢先に、またあの日のように、ニィニィに何かあったらと。
あの時は大きなケガなく、幸か不幸か記憶が抜け落ちただけで済んだけど。
今回はもしかしたらそれだけでは済まないようなことが起きるのではないか、なんて。
経験したことのないほどの不安と心配で気が狂いそうになっとった時でした。

爆弾が投下されたんじゃないかと思わずにはおれんほどの、怒号のような雷でした。
オバァのボロの家は上下左右に揺れ、地震のようにミシミシきしみ、今にも崩れてしまいそうなほど大きな雷だったの。
そして、停電。
ロウソク1本のぼんやりとした仄暗い空間で、ぽつりとオバァが言いました。
美波や覚えとるかね、あの日もこんなふうに停電したさあ、と。

美波、怖くて怖くて、不安で、恐ろしくてさ。
もしかしたら、もう二度とニィニィとが帰って来んような気がしてさ。
だけど、ニィニィは帰って来ました。
出て行ってから6時間後、ちょうど日付が変わって間もなくのことでした。