「で。なに見てたの。釘付けになってたけど」


まるで親しい友人と話すように馴れ馴れしく話し掛けてくる男に、あたしは不審な視線を向けた。

このスタイリッシュな青山通りに何の目的があって、そんな格好でいるのだろう。


「へー」


男はあたしの隣に来ると、関心深げにウエディングドレスを見つめた。


「いつこんなブランドできたの。スノウ、ホワイト? あ。ここウエディングドレスのショップ?」


飄々とした雰囲気で捉えどころのない男だった。


「ユキナ、ヒイラギ? 知らないなあ」


長身の男は首から下げていたカメラを両手で構え、レンズ越しにドレスを見つめる。


「浦島太郎になった気分だなー」


口ではハハハと笑うけど、カメラを覗き込むその横顔は真剣そのものだった。


その目は動物的な生気を放って黒々と輝いている。


「見事に純白だねー」


アハハと高らかに笑う男から、あたしは反射的に一歩後ずさった。


この人、絶対に変。


でも、後ずさったくせにあたしはなぜか男に奇妙な興味が湧いて、ジロジロと見てしまった。


ちゃんとした格好をすれば普通に良い男だと思う。