悠side




ガチャ───



ドアを開けると、いつもの控えめに言う「おかえりなさい」の声は聞こえなかった。



電気はついてなくテレビも消えていて、違和感しかなくて寒気がする。




「…藍?」



呼んでも返事はなく、寝ているのかと思ったが、ソファにも寝室にもいない。





…まさか、出ていったのか?




っ…落ち着け。取りあえず、唯人に電話してみよう。今日はたしか大学ない日だ、もしかしたら唯人の家に遊びに行った可能性もなくはない。



『…もしもし。唯人、藍知らないか?家帰ってきたらいなくなってたんだけど…』




『え?藍が?家には来てないけど…。でも、もとの家に帰ったんじゃない?一ヶ月も経つんだし、探さなくてもいいんじゃねぇの?』




『…は?それ本気で言ってんの?藍が勝手に出て行くわけねぇだろ。傷だってまだ治りきってないんだぞ。…もういい。夜遅くに電話して悪かった『…待って。やっぱり一緒に探すわ。今から行くから。』





電話を一方的に切られたと思ったらあっという間にチャイムがなり、息を切らした唯人が立っていた。



「取りあえず、手当たり次第探そう。施設か山か、元の引き取り手とかだと思うんだが。」



「あぁ。それなら、施設はないと思う。あの場所は多分藍嫌いだから。場所としては山が1番可能性があるが…もう暗いしな。近いとこ…繁華街とか、公園とか探すか?」



「いや、山でいい。繁華街は人が多すぎるだろ。効率が悪い。」



「でも、今の時間何も見えないぞ?」



「懐中電灯があるだろ。…今日のお前なんかおかしいぞ?なんでそんな否定ばっかするんだよ。」