「…」
「…ん、なに」
髪を乾かし終えると、藍は俺と少し距離をとり、フローリングに座った。
そして、俺を見つめている。…いや、違うか。どちらかというと睨んでいる感じで。
何かを喋りたいみたいのだが、口がぱくぱく開くだけで、なかなか言葉はでてこない。
それで、今に至る。もうかれこれ10分は経っている。
それでも。
「ゆっくりでいい」
初めて意思を見せてくれたんだ。見逃すわけにはいかない。
「あ、の…な、んで私を拾ったの、ここではなにを、したら、いい…」
言葉があやふやだが、言いたいことは伝わった。
「あぁ、そんなことか。なんで拾ったか、って…あのまま放置したらお前死んでたぞ?…お前はここでは何もしなくていい。俺が、好きで、ここに藍を置いているんだ。身体を治すことだけ考えればいいよ」
そう言うと、肩がふるふる震えて、目を伏せた。
「やだっ…そんなの、あるはずないっ…へんっ」
「お前が気になるから。藍の事すごく心配だから」
「…っそんなのっ信じ、られないっ…」
どんなに優しく言っても、藍の顔からは不安が消えなかった。
誰が。こんなに藍を追いやったのか。今は、心から怯えてる。