すごい!
ホテルみたい!
しかもスイートルームだよ!
はいはーい
野田 沙耶香でぃす
『立ち直り早いな!』とかのツッコミは聞こえない聞きたくない
部屋の中も外観を裏切らずとぉっても豪華&広い
「へぇ
ここか」
「めっちゃ広いよ!
豪華だよ!」
「……たぶん会長室なんてもっと広いぜ。一人部屋で」
「会長いいな〜」
会ったこともない人羨むなんておかしいけどさ。
「よーし
早いとこ荷ほどきしちゃおう」
「そうだな」
服はここで
おやつはそこの棚にっと。
あ
「祐一郎。
下着片付ける」
「ッバカ
何でそれ俺に言うんだよ」
「念のため?」
「……俺以外のやつにはやんなよ……」
「……? そりゃあ祐一郎以外には言わないでしょ」
「……」
なんかまずいこと言った?
まあいっか
さあ片付け片付け
「祐一郎
ジュースってどこおきゃいいかな?」
「冷蔵庫があるだろ。
台所の方」
ホントだ
ここ台所まで完備されてるんだ……
すっげえ
さすがお金持ち校
さてさてジュースを冷蔵庫に
って何コレ?
缶?
え?あ、これ……
お酒…じゃん?
「祐一郎
これどうする?」
わ……俺はリビングの方で片付けている祐一郎に質問する。
ここ、学生寮だよね。
「ん?ああ酒か……」
「ああ、じゃないでしょ……だろ」
「前のやつがおいてったんだろ」
余計悪い!
むぅーーーー
「飲みたいのか?」
「まさか!
法律違反……だろ」
「正月に飲むお屠蘇にもアルコールは入ってるぞ。
お前毎年飲んでんじゃねぇか」
うぐッ
た、確かにそうだけど……
ムググ……
……あれ?
祐一郎、笑ってる?
「おいッ
からかってたな!」
「悪ぃ悪ぃ……ック」
謝りながら笑うなよ……
「もう今日は口きかない!」
祐一郎のバカ!
バタンッ
乱暴にドアを閉める。
「悪かったって。
おい沙耶香待てよ」
へーんだ。
今日いっぱいは本当に口きかないからな。
もう!
祐一郎のバカバカバカ
人のことからかって!
真面目に言ってたのに!
あいつなんてもう知らない!
私は落ちている小石をおもいっきり投げた。
しかし
コツン
と小さな音をたてて近くに落ちた小石。
ほんっとムカつく!
だけど興奮していた俺は大切なことを忘れていた
俺…重度の方向オンチだった……
そんな俺がこの広い学園で迷わないわけがない
うん
やば
やばいね。
迷った。
どうしよ……
あ〜〜
真面目にどぉしよ。
つか、
この学園広すぎだろぉおおお。
意味わかんないよ、この学園。
迷路だよ迷路。
迷ったのなんて一年前コンビニ行った時くらいだしさ
誰かへるぷみ〜
幼い頃から
この髪の色が大嫌いだった。
母親ゆずりの金色の髪。
それは自分にとって喜べるものではなく
むしろ
忌むべきものだった。
『妾の子』
その事実を一層引き立てる。
僕だって、同じ『御子柴』
でも、他の兄弟は自分のことを蔑む。
父親が、母親に似た顔をした自分を溺愛したのも
原因の一つ。
僕は
家族なんて大嫌い。
だから全寮制の高校に入った。
これでもうあいつらに会う回数は減る。
嬉しいな。
「ふふふっ」
自然と笑いがこぼれる。
そんな時だった
迷ったのかうろうろしている
同じ新入生を見つけたのは。
「どうしたの~?」
ただのいたずらのつもりだった。
けど……
「ひゃいッ」
……え?
女の子?
いやないでしょ。
ここに女の子がいるわけない。
「驚かせてごめんね~」
僕が謝ると、彼女……じゃない
彼はいきなり泣き出した。
僕何かやった?
「ごめ……ん?」
何をしたかはとりあえず置いておいて、
念のため謝る。
いざこざはなるべく起こしたくない。
「い、いや……
わ……俺迷ってて、人に会えてめっちゃ安心しただけで……」
……支離滅裂
なんとなくは分かったけど……
「そっかぁ
だったら僕が案内してあげる~」
「いいの!
ありがとう!
ほんっとに困ってたんだ」
女の子みたいに高い声……
僕も似たようなもんだけど……
「あ! そうだ!
わ……俺野田 さ……光也っつう名前な!
よろしく!」
光也……
「みっちゃん?」
「へ?」
「嫌だった?」
「そんなことない!」
ブンブンと首を縦に振るみっちゃん。
「よかったぁ」
楽しい友達ができたみたいだ。
退屈しないだろうなぁ。
「よかったぁ」
そう言って顔をほころばせる目の前の少年。
ふわふわ天パの金髪
これ……地毛だよね
目ぇ青いし
閑話休題(それはともかく)
び、美少年……
わ……俺より綺麗な顔してんじゃね?
「僕は御子柴 心っていうんだ~」
心かぁ
名前も綺麗だよ。
「みっちゃん
迷っちゃったんでしょ?
部屋どの辺?」
えと……
「たしか……あっちの方?」
「あ! だったら僕と同じ鈴蘭だよ!」
「鈴蘭?」
何で花の名前を?
「白羽学園の寮には花の名前がついてるんだ~
一年生は鈴蘭と蓮華、二年生は蘭と水仙、三年生は牡丹と山吹」
「へぇ~
あの塔は?」
「あれは生徒会専用だよ。紫苑っていうの」
ふぅん
「すごい! よくそんなの覚えたね」
「ありがと~
あ、もうそろそろだよ。
そこのとこ曲がればすぐ……」
「サンキュ!
ここで大丈夫」
「どういたしまして」
「また明日?」
「うん。
明日が入学式だからね」
「バイバイ」
「じゃあね~」
やったぁ
初日から友達が出来ました!
わーい
「祐一郎……」
私はそっと部屋に入る。
飛び出して来ちゃったからなぁ
怒ってるかな……
「紗耶香?」
「……うん
ごめん」
「バカ!
お前自分が方向オンチだって分かってねぇのか!」
う……
確かに迷った。
「はい……
でも迷ったは迷ったけど助けてもらったから」
「は? 誰に?」
「心っていう男の子」
「ヘンなこと、されてねぇだろうな」
「はぁ?」
ヘンなこと?
「されるわけないじゃん。
わ……俺今男だよ。男」
「……ならいい」
何が言いたかったんだよ。
「心配してくれたの?」
「当然だろ……」
「……ありがと」
当然か……
でもよかった
祐一郎、そこまで怒ってなかった。
安心したら喉渇いたな……
さっき泣いたし……
水分水分
「祐一郎、これ飲んでいい?」
「……ん」
ラベルもろくに見ずに、自分のそばにある缶を開ける。
プシュ
あれ?
これ苦い……?
「っておい!それ酒だ」
え
マジ?
気づかなかったですます
なんかぽわぽわしてきた……
これは……ヤバいのかなぁ……?
あぁ……
しまった。
しっかり話くらい聞いとけよ、俺。
「祐一郎ー
眠いー寝りゅー」
「おい紗耶香、こんなとこで寝るとかふざけんな
風邪ひくぞ」
「う…ん」
「おい、起き……」
は?
紗耶香を揺すっていた手が引っ張られ、
バランスを崩した俺は、紗耶香の隣に
……ポスン
腰掛けるかたちになった。
「腕、離せよ……」
「む〜」
余計に強く俺の腕をつかむ紗耶香。
「はぁ……」
すっげぇ無防備。
俺の理性を何だと思ってんだよ。
……それだけ俺を信頼してるってことか?
昔と全く変わらない寝顔。
それを可愛いと思い始めたのはいつだっただろうか?
「女なんだから自覚しろよ。
何されっかわかんねぇぞ」
コレ朝まで続けんのか……
あ、ヤベぇ
俺まで眠くなってきやがった。
寝てはいけない
分かってはいたが
俺は睡眠欲に負け
そのまま眠りに就いた。
寒……
肌寒く感じ、真夜中に目を覚ました。
えっと……
これ、どういう状況?
祐一郎の腕を抱きかかえるようにしてソファーに腰掛ける俺。
「ご、ごめん」
あわててその手を離す。
わた……俺、何したの!?
思わず祐一郎を叩き起こしたい衝動にかられたが、
起こすのは悪いかな……
と思い今起こすのは止めておいた。
お腹減った……
何かないかな?
あ!持ってきたお菓子!
ポテチにチョコにビスケット!
うーん
どれがいいかな〜
「全部食えば?」
「そうだね、全部食べれば……って祐一郎!? 起きてたの!? いつ!?」
「お前がゴソゴソやり始めたときくらい」
「……祐一郎、聞きにくいんだけど
……あの状況、何?」
「知りてぇか?」
祐一郎、何でそんな思わせぶりな言い方すんの!
「全く全然聞きたくない!!」
嫌な予感しかしないもん、
その先のセリフ。
「さぁ〜お菓子だお菓子」
びみょ〜な雰囲気を吹き飛ばそうと、わざと俺は明るい声をだす。
「ポテチにチョコにビスケット!
どれがいいかな〜」
「全部」
「いや、今真夜中だよ。
あんだけ食ったら太るよ?」
「成長期だから大丈夫だろ」
それはお前だけなんだよ!
俺は身長もこのぺったんこの胸ももう成長しないんだよ!
プラス言っちゃうと食っても横にしか成長しねぇの!
叫びたくなったが、自分でもそれは恥をかくだけだと分かっていたので止めておく。
「……そうだね、せ・い・ちょ・う・き
だもんね……」
精いっぱいの皮肉を込めたセリフは
祐一郎に黙殺された。