男装少女争・奪・戦 ~男子校とか無理だから!!~ 【完】

「教えてよ、心
何があったの?
心は意味もなく人を傷つけるヤツじゃないだろ?」

そう言って僕をじっと見据える"少女"の目は、真っ直ぐで

僕ごときが傍にいていい存在ではない

そう感じた

だって僕は、単なる嫉妬で

一人の人間を

大切な『兄』を



                          ……殺してしまったんだから
今でも覚えている

キキーッ

という車のブレーキの音

そしてなぜか

『ごめんね』

と謝る異母兄の顔



……僕は

                           人殺しだ

あの兄を殺してしまったのは

僕の些細な嫉妬

僕は小さなことで

『直兄』を殺してしまったんだ


八年前

僕の遊び相手といえば二つはなれた異母兄だけだった

僕にとっては"ただ一人の遊び相手"

でも直兄にとっては"遊び相手の一人"でしかなかった



それが悔しくて、苛立ちを込めて蹴ったサッカーボールは

楕円形の軌跡を描いて車道の方へ転がる

『おい、どこ蹴ってんだよ』

笑いながらサッカーボールを取りに行く直兄の姿



……それが直兄の笑う姿を見た最後

直兄が僕にかけた最後の言葉……



異母兄の体が宙に舞う

スローモーションに見えたにもかかわらず

僕の体は動いてくれない



……動けるようになった時にはすでに真っ赤な血溜まりに横たわる異母兄の姿しかなかった
僕は何もできなかった

僕のせいで異母兄は死んだのにもかかわらず……



そんな僕には

彼女の傍にいる資格なんてない

誰かを……想う資格なんてない

わかってたことだったのに

人と関わってはいけなかったのに

彼女に声をかけてしまった

だから今ここで

その間違いを正すよ

彼女とはもう関わらない

誰とももう関われない



さよなら

……みっちゃん


「話し終わったでしょ?
帰って、みっちゃん」

異母兄を殺した?

今の話じゃ、心はサッカーボールを遠くに蹴ったってことしか悪いところないじゃん

つうか正直言って心全く悪くないじゃん

悪いのは前方不注意のドライバーと右左を確認しなかった異母兄さん

心が責任を感じることなんてない

そうなんだけど

たぶん心、フィルターかかってるから

俺の話なんて聞いてくれないと思うんだよね



それでも納得させなきゃなんない

屁理屈だろうが何でもいいから

そう、何でもいいんだ

無理やり納得させるのは……できる

だって俺

パワーファイターだもん

説得力はなくても勢いで納得させてみせる

納得"させる"

戦隊ものヒーロー風に言えば

『行くぜ、パワー全開』だよ!





「ごめん、心
俺、帰らない」

「……え」

心の顔色が変わる

「何でよ
帰るって言ったのに、何で……」

「……ホントにごめん
ああ言わなきゃ心は話してくれないと思って……」

「……ウソを……ついたの?」

目を見開く心

「ごめん」

「何でッ……何で…何でよ……
みっちゃんはここにいるべきじゃないのに
何で帰ってくれないの」

「んなの決まってる!
心は大切な友達だからだよ
心が一緒じゃなくちゃ帰れないの!」

「僕なんてどうでもいいでしょ
僕は『悪』なんだから
邪魔な存在でしかないんだから!」

……ダメだ

これじゃあ押し問答にしかならない

突破口を探さなきゃ

心の言葉から読みとるんだ

言葉の解れを探して、そこからこじ開けなきゃ

『みっちゃんはここにいるべきじゃないのに』

『僕なんてどうでもいいでしょ』

『僕は『悪』なんだから』

『邪魔な存在でしかないんだから』

どれだ

グルグルと脳内で文字が回る

どれだ

心が俺といたがらない理由は……

ここにいるべきじゃないからいたがらないのか?

心は自分がどうでもいい邪魔な存在だと思っているからいたがらないのか?

……違う

だったら答えは



『僕は『悪』なんだから』



コレ、だ







ここから崩していくんだ

『僕は『悪』なんだから』

ここから

力づくで崩してみせる

俺は少し考えると

軽く息を吸い込み

話し始めた
「心はさ、俺がウソをついたの嫌だった? 悲しかった?
……俺に…ウソついてほしくなかった?」

心は『なぜ?』とでも言うように顔をしかめたが、それも一瞬だけですぐにコクンと頷いた



……ここまではOK

「じゃあさ、心はウソをついた俺のことが……嫌い?」

うつむく心

「正直に言っていいから」

ここで言ってもらいたい言葉があるんだ

そのセリフが出てこなかったら、俺の作戦は失敗しちゃう

だから、言ってくれ……



『嫌い』と



「……僕は…みっちゃんのことが

                                 ……大嫌いだ」