男装少女争・奪・戦 ~男子校とか無理だから!!~ 【完】

その答えを教えてくんなきゃこっちも反応できないんだよぉ……

「……みっちゃん」

「なに!?」

一瞬答えを教えてくれるのかと期待した

けど

「今すぐ帰って」

「こ、心!?」

帰れって言われた!?

俺が驚いてあたふたしていれば

「帰ってよッ!!」

心が声を荒げる

それは初めて聞いた声で……



……俺…わかんないや

心は何をそんなに嫌がっているんだろう

何で俺にここにいて欲しくないなんて言うんだろう

わかんない……



……でも

心が本気で俺にいて欲しくないと思ってても



「俺、帰らない」



"まだ"帰れない

俺は一人で帰るなんてしない

心と一緒じゃなきゃ意味ないもん

心が一緒に来てくれなきゃ

俺はここを動かない






「心、行こうぜ」

「……行けないよ」

「何で?
行けないって……道はわかるよ?」

努めて明るく言う

心が行けないって言ってんのは、きっとそういう意味じゃない

俺だってそのくらいわかってる

でも、心が俺と一緒に来てくれない、その理由はわからない

それをまず知らなくちゃいけない

知らないと、心はきっと来てくれない

「行かない」

頑なに俺という存在を拒んでいる心は、来てくれない

そっと目を閉じて考える

どうすれば心は来てくれる?

俺を拒否する理由を教えてくれる?

どうすれば……?





……よし

少し考えた後、俺はそっと目を開いた

「…………心、わかった

              
                ……お前をつれて帰るのは、あきらめる……だから…………教えてくれ」

心が、俺を遠ざけようとするワケを




どうだ……

心はノってくるか?

ホントは帰る気なんてさらさらない

完全なウソ

良心が痛まないわけじゃない

友達を騙すのは辛い

でもそれ以上に友達が一緒にいてくれないのは苦しい……

「……話したら……帰ってくれる?」

俺は深く頷く

「帰るよ……教えて」

ツキリと胸が痛む

悪いことをしてるって自覚はあるから

だってこれはただの自己満足

俺のために

俺が心に傍にいて欲しいと願っているがために

こんなウソをついてるんだから

「わかった……話す……
そしたら…帰ってね……」

胸が再び、ツキリと疼いた
「……僕は、人殺しなんだよ」

顔を伏せるようにして話し出す心

「……ヒトゴロシ?」

意味がわからなくて聞き返す

ヒトゴロシ……

きっと変換すれば『人殺し』なんだと思う

和風美人さんが口にしていた言葉

それは今から心が話そうとしていることとどう関係があるのかな?

俺は心をじっと見つめた



心という存在を確かめるように……
「僕は……異母兄を殺したんだ……」

ここまでは和風美人さんと同じ

「……本妻の息子……次期当主を」

「……そっか」

俺はさりげなく聞こえるように返事

「……それだけ?」

「……え」

一瞬、いつもの心だと直感した

問いかけてきた心の目はいつものようにキラキラと輝いた……ように感じた

けれどその瞳はすぐにさっきのくすんだような瞳に変わる

「……心」



今の瞳だ

キラキラと輝くような瞳に

変えなきゃ

変えなくちゃ



「心はさ……殺したいって思って……その異母兄が嫌いで殺したの?……いや、殺したのかはわかんないけど……」

ああもう

何が言いたいのかわからなくなってきた……

「……異母兄が嫌いだったわけじゃないんだろ?」

前後の文脈……繋がんないな

でも

和風美人さんも言ってたし

『仲がよかった』って

まあ俺はそんな昔から心を知ってるわけじゃないから、そのこともほぼ全くわからない

だから

「教えてよ、心
何があったの?
心は意味もなく人を傷つけるヤツじゃないだろ?」

心は、ときどきイタズラっぽいけど

やっぱり優しい

そんな心を知ってるから

俺は心を信用してる

心の……悲しみとか、そういうの全部

知りたいと、受け止めたいと願うんだ

友達として





「教えてよ、心
何があったの?
心は意味もなく人を傷つけるヤツじゃないだろ?」

そう言って僕をじっと見据える"少女"の目は、真っ直ぐで

僕ごときが傍にいていい存在ではない

そう感じた

だって僕は、単なる嫉妬で

一人の人間を

大切な『兄』を



                          ……殺してしまったんだから
今でも覚えている

キキーッ

という車のブレーキの音

そしてなぜか

『ごめんね』

と謝る異母兄の顔



……僕は

                           人殺しだ

あの兄を殺してしまったのは

僕の些細な嫉妬

僕は小さなことで

『直兄』を殺してしまったんだ


八年前

僕の遊び相手といえば二つはなれた異母兄だけだった

僕にとっては"ただ一人の遊び相手"

でも直兄にとっては"遊び相手の一人"でしかなかった



それが悔しくて、苛立ちを込めて蹴ったサッカーボールは

楕円形の軌跡を描いて車道の方へ転がる

『おい、どこ蹴ってんだよ』

笑いながらサッカーボールを取りに行く直兄の姿



……それが直兄の笑う姿を見た最後

直兄が僕にかけた最後の言葉……



異母兄の体が宙に舞う

スローモーションに見えたにもかかわらず

僕の体は動いてくれない



……動けるようになった時にはすでに真っ赤な血溜まりに横たわる異母兄の姿しかなかった