男装少女争・奪・戦 ~男子校とか無理だから!!~ 【完】

決めた! 俺は今日から無神論者になってやる!

神様、あと一回だけチャンスをあげます

信者減らしたくなかったら十秒以内にこの状況どうにかしろや!

10

ガラガラガラッ

……え



「失礼いたします」



「奥様にお客様が」



「いらっしゃいました」



「そう、わかったわ」



「少し席を外しても?」



一にも二にもなく頷く



和風美人さんはたおやかに微笑むと部屋を出て行った



えぇぇええ!?

ホントに十秒以内にどうにかなっちゃったよ

神様、暴言吐いてすみませんでした

お許しください

俺の頭の中で、『都合のいいときだけ現れる神様』がグッと親指を立てて微笑んだ……ような気がした
さてさて

この後どうするかなんだけど

このまま待ってたとしてこの状況、切り抜けられる?

たぶん……無理だろうな

俺の頭で思いつくとは思えない

せっかくのチャンス、しっかり利用させてもらわんとね

そっと音を立てずに部屋から出る

こういうのは地味に得意

小さな頃、お母さんにナイショでお菓子調達してたから

主に台所から

だからほぼ無音で抜け出せた

ちなみに、俺が出たのは庭

家の中にいると見つかるかもだし

庭の方が比較的自由に行動できそうだ

ということで

捜査開始なり

なりなり~



ザクッという小石の音がしないよう、ところどころに埋め込まれた大きな石を飛び移って移動

気分は

私潜入中だぜ、スパイだぜ、忍者だぜ!

って感じ

見つからないかドキドキ

ワクワクはできない

どちらかというと

緊張

コワイ

みたいなマイナスイメージかも

だけどそれでも

心臓バクバクで、立ってるだけで息切れしそうでも

心を助けるためならいっかぁって思える

友達だから

俺が思ってるだけかもしれないけど

親友だから……さ

ま、それはともかく

俺が今大声でグチりたいこと

聞いて

いくよ?



~~~~ッこのお屋敷広すぎだっての!

誰だこの屋敷設計したの

一発ぶん殴る

こんなわかりにくい設計しやがって

心んとこにたどり着けねぇよ!

前言撤回、やっぱ百発ぶん殴ってやる――――――――






けれどこの時の俺はあることを忘れていた

怒りと決意に燃えていた俺は完全に冷静さを欠いていた

今は八月

そして地球温暖化が進んだ今日このごろ

八月は充分過ぎるほど



あっちいんだよ!!



ひたいから流れ落ちる汗は拭っても拭ってもポタポタとあごの先から流れていく

うっぜぇ……

このままだと熱中症にも気をつけなきゃなんないし……

……今年の夏、エアコンをガンガンにして寝てた俺を呪いたい

なんて、考えられたのもつかの間



フラリ



「ほよぉ!?」

目眩がして倒れそうになり、素っ頓狂な声をあげてしまった俺

マ・ズ・イ

聞いてたやつは、いないと願いたいんだけど……

いっぽいな、うん

向こうの方からバタバタという足音がする

ここにいたら捕まるのも時間の問題

どうすればいいんだ!?

周りを見回す

すると見えたのは……

障子のついた部屋?

ここなら障子を閉めりゃぁバレないんじゃね

さっきの足音が大きくなる

もう一か八か

ここに隠れよう

俺はその部屋に人がいないことを願ってそっと障子を開けて中に入った



入ったのは九畳くらいの茶室

うわーい畳だ畳だ

じゃなくて!

和風美人さんと話してたのも畳だったしそこまで興奮することでもないかー……でもなくて!

何ノリノリになってんの

遊びに来てんじゃないから

心を助けに来てるんだから

気合いを入れるためにほっぺたをペチン

いったぁ……

痛いけど……気合いは入ったよな

よしよし

じゃあ早いとこ行動しなきゃ

しなきゃね

なのに……



あいつらどんだけ執念深いの!?



いつまで経っても俺を追ってきたやつらはいなくなる気配ナシ

あんたらがいなくならなきゃ俺行動できないんだけど

お前らがいなくなるまで待てと? 待てと?

断る!

時間がもったいないじゃんか

けどなぁ

外には出らんない

……ん、だったら

この部屋で手がかりを探せばいいんだ

きっとこの部屋に手がかりはある

あるよ、ある

こんなのただの勘だけど

ずっと待ち続けてる、なんて俺のガラじゃないもん

俺は待つよりも行動してる方が性に合ってるよ、やっぱり




っつってもこの部屋、ほとんど何もない

はじの方に積み上げられた座布団

立てかけられたちゃぶ台

んであとは……

……と……とととと!?

か、刀!?

鞘に収まった長刀

ほら、時代劇とかで見るアレ

マジか

銃刀法違反とちゃうの?

コレ

別に俺警察でもなんでもないからいいんだけどさ

そうだ、コレ護身用にもってっちゃおうかなーなんて

……冗談だよ?

それでこそ犯罪だしさ

そういえば時代劇といや

やっぱり隠し通路だよねぇ

たとえばあの掛け軸の後ろとか

俺は『まさかね~』などと考えつつ長刀の後ろにある掛け軸をめくる

そこにあったのは……



隠し通路だ!

ということがあればいいんだけどねー

隠し通路なんて物はなく、かわりに、と言うべきかはわからないが封筒があった

なんだこれ?

へそくりとか?

……………………

……ごめんなさい、つまらなかったね

スベってたね

俺は架空の涙をそっとぬぐうと、その封筒の中身を取り出した

……何コレ?

読めない

なんか英語が書いてあるんだけど

俺ジャパニーズオンリーだから

ノーイングリッシュだから

解読不可能

ところどころに書いてある数字とかは読めるけど

それだけでわかっちゃうようなエスパーじゃない俺にはやっぱり読めず

うーん

ポクポクポクポクポクポク……

……チーン

うん、読めないわ

手がかりにはなるかなぁ?

暗号とかだったらなりそう

それともただの英語なのかな……あ?

足音……止んだ?

もうこの部屋出られるか

だったら心を助けに部屋出なきゃ

この封筒もいざとなったときに捨てればいいよね

もってっとこ

外に出たらまたあんなことになるかもだから、今度は屋敷内を移動

ということで

第二ラウンドだぜ!(なんか違う?)

心、俺頑張るからねーーーーーー!



柱の陰に隠れ、息を潜める

……なんて、アレ現実にはあり得ないなって丁度今痛感してます野田 沙耶香です

はいはい俺ただいま

屈強な男の人たちに



追われてますッ!



キラキラリーンと明るく言ってみたけど状況は全く好転しませんしないのです

いや、俺だって柱一本でどうなるとかは思ってなかったけどさ

それだけ追い詰められてたんだよ

約五分前にさかのぼると……





やっべぇやっべぇ

むやみやたらに行動するんじゃなかった

こんなことさっきのアレでもわかってたことじゃないかぁぁああ!

十メートルほど向こうに警備員さんっぽいなんか怖い男の人を見つけちゃいましたんこぶ

……寒っ

笑えねぇよ笑えねぇよ

体感温度が二十度くらい下がってくれました

涼しいですむしろ寒いです

そんなジョークを考えてる間にも

男の人は歩いてきますマズいです

つうか前見られたら完全に見つかるわな

軽く言ってるけどヤバいものはヤバい

こ、これは……

どこかに隠れなければ!

そしてパニクった俺は柱の陰に隠れたわけなんだけど……

やっぱ人間の体積って柱一本でどうにかなるもんじゃなかったわ

うんうん

……もうとっくに後悔はしてる