もはやひれ伏してしまいそうな私は、実際に目がハートマークになってたんじゃないかと思う。この時ばかりは。
そしてようやく、自分が名乗っていないことに気がついて焦って名前を噛む。


「た、たた、たきが、滝川深雪です!初めまして!」

「わぁ、聞いてた通り元気な子だ」


にっこり微笑む壮一郎さんの朗らかな笑顔は、啓さんとはまた違った大人の香り。
一体何歳なんだろうか。


「深雪ちゃん、札幌から帰ってきて早々にこんな報告するのも申し訳ないんだけど……」


麗奈さんがそう言って、壮一郎さんと目を合わせる。
その美男美女のアイコンタクトをぼんやり見ていたら、思いもよらないことを言われた。


「私、壮ちゃんと結婚することになりました。今月いっぱいでここを辞めるわね」

「………………………………えっ?」


リアルに、持っていたバッグを地面に落としてしまった。


「結婚!?辞める!?」


ムンクの叫び状態の私を横目に、啓さんが深々とため息をつく。
私のこの大きなリアクションに呆れているわけではなく、どうやら麗奈さんたちの決断に呆れているようだ。


「……だってさ。俺もついさっき言われたんだわ。兄貴がこっちに帰っきたのは休暇をもらったからで、実際は東京に転勤になったらしい。で、麗奈はそれについていくことにしたんだとさ」

「だってこれ以上、壮ちゃんと離れて暮らすの無理なんだもん!」


プイッと啓さんから顔をそらした麗奈さんが、これでもかと言うほど甘えたように壮一郎さんの肩によりかかる。
いつも凛としていた彼女からは想像もつかない姿だった。可愛すぎる。