そんな平穏な空気が流れる中、家に先に入ったはずの啓さんが私たちの元へ戻ってきた。
しかも、珍しくちょっと焦ったような顔つきで。
そしてその顔のまま政さんに詰め寄った。


「政、大事なことは先に言えよ!」

「あ、もしかして会った?聞いた?」


政さんは楽しげにスキップでもしそうな雰囲気で啓さんの肩を叩く。
その手をうざったそうに払った啓さんが、なにがなんだか分からず目を白黒させる私に説明しようと口を開きかけた。


「深雪、実は……」


そこへ、家の扉がガチャッと音を立てて開いて誰かが顔を出す。
麗奈さんだった。
彼女の顔はとろけそうなほど嬉しそうな笑顔。


「ふふふ。啓、驚かせてゴメンね〜」


なんだなんだ、と首をかしげていたら、麗奈さんの後ろから長身の美形が姿を現した。
まるで雑誌やテレビから抜け出してきたんじゃないかって錯覚してしまいそうになるほどの、誰がどう見てもイケメン以外の言葉が当てはまらないその男性。
どことなく、誰かに似ているような……。


美形の彼が、笑顔で私に会釈した。
慌てて私もペコリと頭を下げる。
口を開けたままの私へ、啓さんが紹介してくれた。


「昨日話したべ。俺の兄貴」

「初めまして。井樋壮一郎です」


あっ、と声なき声を上げた私は、想像していたよりも遥かにかっこいいお兄さんの姿に言葉も出なかった。


なんてこったい、お兄様。
ビックリするほど素敵じゃないですか!
啓さんと違って目は青くないけれど、髪の色は同じアッシュグレー。
「俺、めちゃくちゃモテます」と言いふらして歩いてもイヤミのないほどの整った顔をしていた。
美人の麗奈さんとお似合いすぎて泣けた。