「女心が分からないだけじゃなくて自分の気持ちにちゃんと気づかないなんて……本当に鈍感なんだから。しっかりしてよね」


俺の太ももあたりを叩こうとしたハルの手が、すっと通り抜けた。

慌てて彼女の左手を見てみると、やはり彼女の左手は指先から消えかかっていた。


「あはは、もう時間がないみたい……もう、本当にさよならだね」

「時間が、ない……? さよなら……?」

少し震えた俺の声。でも、隣の彼女はそんなもの気にもしないで再び口を開いた。


「最後に一つだけ、敦くんにお願いがあるの。彼女に、ちゃんと愛を捧いであげて。敦くんなら分かるでしょ? 人は、いつ消えてしまうか分からないから。 ちゃんと、後悔しないように恋をして。愛してあげてね。彼女を……ちゃんと、その子自身を、一人の女の子としてみてあげて。誰も重ねないで。そして……ちゃんと、彼女の名前を呼んであげて」

「え……」

「私、本当は全部知ってるんだからね。彼女の名前、私と一緒なんでしょう?」